「口から始まる健康づくり」 (中西 洋介 君 )

2011年5月9日(第2555回例会)

今日は「口から始まる健康づくり」というテーマで歯について少しお話したいと思います。
歯があってこそ美味しく食事ができ、美しい顔となり、素敵な笑顔で健康を維持し、長寿を楽しむことができます。歯科医師会の調査では、歯の残存数が多い人ほど糖尿病や脳梗塞や癌などの病気が少ないというデータが出ております。同様に、歯の残存数の多い高齢者ほど医療費が少ないというデータもあります。つまり、今日のテーマである口から始まる健康づくりということです。皆さんも日本歯科医師会が推奨する、80歳になっても20本の自分の歯を残すということを心掛けていただきたいと思います。
このような理由から自分の歯をより長くもたせることが一番ですが、無くなってしまった歯を天然の歯のように再生できないものでしょうか?
余談ですが、「柳生武芸帳」を書いた五味康祐氏は義歯の効用について次のように述べています。「私は専門家ではないから偉そうな口はきけないのだが、我身に省みて、人間の体はまことによく出来ていて、欠けたものは他で補えるようにおもう。歯も同様である。なまじむし歯や歯槽膿漏でモタモタしていては埒が明かない。いっそすっぽり除去してしまった方が生気はつらつとなりそうである。実のところ、私もむし歯に悩んできた男で、3年前に入れ歯にしたら、果たして下の方の機能も若返ってくれた。おかげで時折はつまみ食いして、大いに津液を吸い得て元気である。更に申すなら、本来、私も歯並びのよい方でなかったが、義歯というのは歯を揃えるものだから、つまり観相学からいう“凶をつつみ晦す”こともできて、かくはポテンツを恢復し得たのではあるまいか。諸公も、精気の衰えを自覚されたら、多分歯が弱くなっていようから、妙な回春剤など服用されるより、いっそ歯の治療をなさることです」と歯を失った人に義歯を装着することの効用を述べています。このように歴史的文献を考察してみると、21世紀の回春剤はバイアグラより義歯のようです。
それでは、まず日本における歯科の歴史について少しお話したいと思います。日本の入れ歯の歴史は世界で一番古いと言われております。その入れ歯は、木製で木床義歯といいます。材料は、硬くて抗菌作用のあるツゲの木が使われていました。1538年、江戸時代を遡ること65年前には、和歌山県の仏姫が使っていたものだと言われています。その入れ歯は、仏像を作る仏師が作り、徳川家康も使っていたようです。
最近、歯の治療に関して、インプラントという言葉がよく聞かれるようになったと思います。さて、インプラントとはどのようなものでしょうか? 今まで歯の無くなった人は、義歯で歯の代用をしておりましたが、義歯に代わって、人工的な歯根を顎に埋め込んで作る義歯のことをインプラントといいます。即ち、今まで取りはずし使用していた入れ歯の代わりに、歯の無いところに人工歯根を埋め込み、天然の歯のように作る人工歯だと思って下さい。この方法は、日本でまだ25年位の臨床歴史ですが、今後ますます発展する方法だと思います。そこで、本日の私の卓話でインプラントをより正しく理解していただき、健康な体づくりに役立てていただければ幸いです。
ここで、お断りしておきたい点は、私は矯正専門医であり、インプラントについては手掛けたことがありませんので、今日のお話はインプラントに関しての一般論だと思って下さい。詳しいインプラントの術式などは、当クラブの高垣先生や足髙先生に聞かれた方が正しい答えが返ってくると思います。
本日の卓話の流れとしては、スライドに示すとおりです。
1.インプラントに注意を要する症状について。
インプラント治療は、今までの義歯と比べると多くのメリットがありますが、インプラント治療が絶対とは言えません。また、インプラント治療は誰にでも可能なものでもありません。一般的に高血圧、糖尿病、心疾患、血液疾患、骨粗鬆症のような全身疾患が重度の場合は不適応症といわれています。また、極端に顎の骨の少ない人、チタンアレルギーのある人、ヘビースモーカーの人もインプラントは適していません。
2.インプラントのメリット、デメリット
メリットとして
・自分の歯のようにしっかり噛める
・欠損歯の隣の歯を削らなくてすむ
・失った歯が多数でも、噛み合わせの力が回復する
・自分の歯に近い外観が再現できる
・口腔内の環境を改善することにより健康向上につながる
・取りはずしの入れ歯のような不快感がない
(入れ歯は噛みごたえが悪い、すぐはずれる)
デメリットとして
・治療期間が長い
・適応症を選ぶ必要がある
重篤な疾患のある場合、外科手術にリスクを伴う
(骨粗しょう症、リウマチ、放射線療法中 etc…)
・コストが高い
・メインテナンスが不可欠
・インプラント治療ができる歯科医院が少ない

 

まとめ:歯を健康に保つには
機械でもメインテナンスをしないと故障します。生身の身体なら、なおさらです。むし歯を治しても口の中には常に細菌が生息し、むし歯や歯周病を引き起こします。そのため、普段からのメインテナンスは必要なことです。
メインテナンスには、日常自分で行うものと歯科医院で定期的に行うものがあります。日常は、歯ブラシを基本として、補助的に糸ようじや歯間ブラシを使うことをお勧めします。歯科医院では、専用の器具を使い歯石や着色を除去します。このことをPMTC(Professional Mechanical Tooth Cleaning)と言います。皆さん、年に2~3回はこのPMTCを受けることをお勧めします。PMTCをすることにより、老化による歯周病が随分と改善されるはずです。また、歯科医院では自分に合った歯ブラシの種類や硬さも相談できますので、歯の定期的なメインテナンスのためにも是非、定期検診を受けて下さい。