2013年4月15日(第2640回例会)
(担当会員:清水 美溥 君)
私は写真家であり、大阪芸術大学写真学科の学科長をさせて頂いています。私は明日からイタリアに行きます。成田発を関空発に変えて今日の会に出させて頂きました。明日からの仕事は、ニコンから新しいカメラが出ますので、そのカメラで作品を撮ってくるというものです。南イタリアのナポリ、マテーラ、アマルフィ、アルベロベッロあたりを旅してきます。
出身は石川県小松、ブルドーザーの小松製作所の小松です。毎年、小松のプロアマ戦に必ず出させて頂いています。皆様もゴルフがお好きな方が沢山いらっしゃるかと思いますが、私もぼちぼちとゴルフを楽しんでいます。雪景色の中で生まれ育って、小学校に行く道すがら、両方に九谷焼の公房があったり、金沢の方に行けば友禅流しをしているとか、美しいものを見る機会が多かったと思います。自宅の前に画家が住んでおられて、3歳ぐらいから絵を見に行っていました。抽象画でしたが子供は頭が軟らかいので立体になっていくなど、子供の頃から頭の中で変化させる訓練をさせてもらったと思います。芸術が好きでしたが、足も速かったので陸上部に入って、全日本ジュニアオリンピックに出て、短距離で北信越の記録を出しました。槍投げもするなど体が鍛えられたお蔭で、スイスに行くと、重いカメラを担いで5時間もトレッキングしたりしています。
そんな私が京都文教短期大学に進学、卒業式の日にミスユニバースになってしまいました。友達の推薦で、身長も他の人に比べて低かったので期待せず、遊んで帰ろうという楽な気持ちで緊張しなかったのが良かったのかもしれません。気が付いたら日本代表でした。たまたま審査員の方たちの趣味に合っただけだろうと、一年間だけですので、一年後には何をしようかと毎日考えていました。色々な出会いがあり、その中で私の心にきた縁というのが、後に弟子入りをすることになる大竹省二先生です。色々なところで撮影会があって、私は撮られるのが凄く嫌でした。1対100とか200とか大勢の人たちが散弾銃のように連写します。この写真は一体どこに持っていってどのように使われるのか、仕事ですがあまりニコニコできませんでした。準ミスの彼女たちは笑顔でサービス精神が旺盛、撮影会の指導に来られていた大竹先生に「君を撮る人がだんだんいなくなっている。人気のないモデルだね。君はモデルが嫌いなの、何を目指しているの」と聞かれて、思わず答えたのが「芸術家になりたいです」というもの。「じゃ、写真家がいいんじゃないの」と言われますが、30年以上前ですので、女性がカメラを持って働いているのは少なかったと思います。今は大阪芸大でも生徒の7割が女性です。「この世界はこれから女性が出てくるぞ」という言葉に、「あっ、いいな」と思って、写真集を見たら色があって構図があって、絵と一緒、私にもできるかもしれないと思ってしまいました。
次の年の方に王冠を渡して、大竹先生のところに行きました。モデルをしていた時にお会いした大竹先生は優しかったのに、弟子になると180度違います。叱られたことは山ほどあります。「もうやめよう」と思いながら1年、2年、「華麗なる転身、ミスユニバースからフォトグラファーへ」と週刊誌に出てしまってやめるわけにはいきません。自分のエゴを捨てて人の気持ちになって物を考えなければならないということを叩きこまれました。失敗も多く、戸棚が1㎝開いていると、「だらしない、1㎝開けるということは、カメラの1メモリ間違って設定したらアンダーになったりオーバーになったり、ちゃんとした写真が撮れない。こういうところが命取りになるんだ」と正座させられたことを覚えています。写真界で厳しさナンバーワンだと思います。何でこんなに厳しいのだろうと調べたら、陸軍中野学校の中尉だったそうです。中国で観相学、手相をみっちり学ばれて、弟子たちの手相を見られました。軍隊のような中で5年間の修業でしたが、3年目になると勘のようなもの、先生の思いが全て分かるようになり、これが石の上にも3年です。スタジオのチーフになって、新しい弟子たちが入ってきますが、これだけ厳しいとなかなか続きません。修業中に仁科の賞も頂いて、フォーカスのカメラマンなんかもやっていました。色々な方を撮らせて頂きました。
一番最初にユーディ・メニューインの撮影をした時の報酬が18,000円、ミスユニバースの時、ニコッと笑って花束を贈呈したら50,000円、20歳の時にはCMもあって1,000万円以上の年収があったのに、修業時代はゼロでした。デビット・ボーイ、サッチャー首相、そしてポール・マッカートニーの撮影はたった1回だけ許されました。各国の要人の撮影や、メーカーの仕事、自分のライフワークは、パリの方での花のシリーズ、スイスでも撮影をしています。大阪芸大で約9年、大阪の魅力がだんだん分かってきたように思います。
写真を撮る時のコツ、女性を美しく撮るには逆光で撮って下さい。逆光でレンズの中に光を入れない、屋根や木の下、大きな影の下に入って、被写体に逆光になってもらいます。今のカメラは賢いので何も考えずに逆光で、光さえ入れなければ綺麗に撮れます。昔のカメラの場合はストロボをたいて下さい。私が長年にわたってお仕事しているのはカルロス・ゴーンさんです。プライベートジェットで世界各国をご一緒しています。ゴーンさんには本当に色々なことを教えて頂きました。私は外部者ですので「日産はどう思うか、車はどう思うか」と色々なことを聞かれたり、色々な話を忌憚なくできるので、多分食事にも呼んで頂けるのだと思っています。社員の方との間のクッション役にもなっています。先週は小泉さんとお食事をさせて頂きましたが、若い人に凄く人気があります。これからもエネルギーいっぱいに明るく頑張っていきたいと思っています。ただ、肉体労働で、荷物が50㎏もありますので、体の続く限り頑張って、後継者の育成、若者たちを育てて就職させるまでが私の仕事だと思っています。本日はありがとうございました。