「イスラエイドの日本での活動について」 (イスラエイド ヨタム・ポリツェー 氏)

2013年4月8日(第2639回例会)

(担当会員:中村 一志 君)

 

イスラエイドは、 2011年3月11日東日本大震災発生4日後に被災地に入りました。
当時、人々は家族、親戚、友人らの安否確認と、ご自身の生活の立て直しに忙しく、わたしたちの支援を受け入れる(精神的)余裕がありませんでした。
今からちょうど2年前の4月8日に宮城県亘理市に入り、仮設住宅で暮らしている約300人の子供たちに対し支援活動を行いました。避難所での子供たちは、運動の場を失い体を動かすことが出来ずにいました。わたしたちは、アートセラピー(芸術療法)を通じて子供たちのストレス軽減を試みました。
一枚の大きな白い紙に四つの窓(仕切り)を設け、それぞれの窓にテーマを与え「ひらがな」で書きました。1)つなみ 2)いえ 3)きぼう 4)しあわせ、です。各自好きなテーマに自分が感じていることを描いてもらいました。
一人の子供が、「黒」すなわち「暗い色」のクレヨンを選び「つなみ」という文字を塗り消しました。「つなみ」は、その子の目の前で多くの人たちの家をさらい破壊しました。その子は、つぎに「きぼう」の窓に、破壊される以前の自分の「いえ(家)」を描きました。「しあわせ」の窓には、子供らしくアンパンマンや桜を描きました。
わたしたちは、子供たちは話さないけれども「アート」で自分の感情を表現するということを目撃したのです。
避難所(仮設住宅)の教師たちは、その光景にショックを受けました。なぜなら、被災後、子供たちが自分の感情を表現したのを初めて見たからです。教師たちは、わたしたちにアートセラピー(芸術療法)などのトレーニングを行うよう求めました。この感情表現を促すセラピーは、亘理市だけでなく、被災三県、布いては日本全国に必要だと強調されたのでした。
イスラエイドの母国イスラエルは、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の専門家を多く輩出し、その分野のエキスパートです。それは、なぜでしょうか?
第二次世界大戦終了後、イスラエルではホロコースト(ナチスドイツによるユダヤ人の大虐殺)生存者が精神的ストレスを抱えていたことは知られていましたが、医師たちはどう対処すべきかわからずにいました。しかし、生存者たちは話さなくても、アート、音楽、そしてムーブメント(ダンスなど身体運動を活用したセラピー)を通じて感情を表現することはでき、それに着目した医師らが研究を始め、今日に至ったのです。
亘理市に続き、宮城県山元町で支援活動を開始しました。ご存知の通り山元町のふじ幼稚園では園児8名と教諭1名が犠牲になられました。地元の方々のお話によると(日本)政府は建設やインフラ整備などの復興活動は進めているものの、被災者の「心のケア」までは対応できずにいます。2年で復興すると公約したにも関わらず、未だに多くの人々が仮設住宅での生活を余儀なくされているのです。
ストレス軽減のためのトレーニングを、仮設住宅の住人、学生(高校生)、ソーシャルワーカー、NPOのボランティアスタッフを対象に開催しました。およそ30のグループでした。トレーニングでは、被災者ご自身の「心のケア」を試みると同時に、現地でトレーナーを育成することにも力を注ぎました。
宮城県に次いで福島県でも支援活動を開始しました。福島県は他の被災地と異なり原発事故という困難な問題を抱えています。私たちは福島県新地町の幼稚園でトレーニングを行いました。放射能汚染のため子供たちは外で遊ぶことができず、また親たちも精神的なストレスに苦しんでいます。原発事故のために他府県へ移住を余儀なくされている方々も多くいらっしゃいます。それら他府県へ移住されている方々への支援も検討し、この2月から大阪の移住者を対象に活動を始めたところです。
「心のケア」と並行して、生存者の体験談を記録に残す活動、「東北の声」プロジェクトを行っています。このプロジェクトは「その人の生涯」を記録したもので、当事者の同意を得、3つのテーマに絞って取材を行います。「津波以前のこと」、「津波に遭遇したときのこと」そして「その後」についてです。
個人的な話になりますが、私の亡き祖母はユダヤ系ハンガリー人でホロコーストの生還者でした。イスラエルの公文書館で保管されている彼女の「証言フィルム」は、わたしの家族の家にもあり、子供のころからそれを見ています。祖母の証言は「一族の記録」であり語り継がれるものとして大切にしています。将来、自分の子供にも見せるつもりです。
境遇は異なりますが「悲惨な出来事」を体験した肉親を持つ者として、「証言フィルム」の重さを痛感しています。
「大震災と津波」そして「原発事故」の証言記録は、日本のみならず世界中で後世に伝え残さなければならないものです。イスらエイドは、これまで宮城県亘理市、山元町そして石巻市で100名以上の方々の「証言」をフィルムに収めました。わたしたちが、今、危惧しているのは生存者の高齢化です。急いで貴重な「証言」を記録に残さなければならないと考えています。
「東北の声」プロジェクトは、被災地の公文書館および証言者ご自身へ捧げられます。フィルムはDVD化され、特製の写真集とともに贈呈されます。この写真集はイスラエルの著名なカメラマンと、イスラエイドの協賛者であるHP(ヒューレット・パッカード社)によって作製されたものです。
イスラエイドは、これからも被災地および被災地から避難を余儀なくされている方々に心を寄せ、支援活動を続けていきます。わたしたちの活動に、多くの方々のご理解とご賛同をいただけれることを、心から願っています。

 

IsraAID資料

 

問い合わせ先:イスラエイド日本担当ディレクター
ヨタム・ポリッツァー yotash@gmail.com