「今、何故ポリオか」(神戸大学大学院教授 中園 直樹 氏)

2011年7月25日(第2565回例会)

(担当会員:野村 泰弘 君)

私は2000年4月1日に神戸大学に移るまでの8年間、大阪の関西医科大学で教職をしており、ロータリー歴は神戸北RCでお世話になっています。
「今、何故ポリオか」ということでお話をさせ頂きます。ポリオは日本にはありません。昭和30年代、40年代に小児麻痺という言葉で言われ、これは感染症です。腸内ウイルスのポリオ1~3型が感染を引き起こすというものです。かかる可能性のある感受性のある人がかかります。ウイルスがどういう経路でうつるかというと、ウンチから出て水を汚染するなどして経口感染します。日本では昭和30年代に共同トイレのある炭鉱、筑豊などで流行って、小児麻痺といわれました。感染症ですので病原体がなければかかりません。かかり得る可能性のある人がいなければ病気は広がりません。病原体はそこに運ばれないとうつらないというスタイルになっています。
ポリオの予防ははっきりしており、目薬みたいな形で飲ませるワクチンを持っています。これを飲ませれば感受性のある子供がいなくなります。それを飲んでいないと、ウイルスがあれば、ウンチから出て水を汚染して食べ物と一緒に入るなど、ロータリーがいつも言っているように、貧困をなくすために、病気をなくすためにもトイレと水が非常に大事だということです。
ポリオにかかった人が一人いたら、その周りに症状が出ないけれどかかった人が200人いるといわれます。ポリオをゼロにするためには、こういう人たちが一人もいないようにしなければなりません。世界の感染の状況を見ますと、貧困がなくなってきたり、生活レベルが上がってきたりと確実に減ってはきていますが、残念ながら依然としてまだ残っており、その被害者のほとんどは子供です。
2015年までに国連加盟国が到達しようとするMDGs、8つの項目を設定しました。国際ロータリーがターゲットとしている重点項目はそのうちの6つで、ポリオは6番目のHIV/エイズ、マラリア、その他の疾病の蔓延防止になります。我々は過去の歴史で天然痘を世界中からなくすことかできました。
伝染病をなくす時にどういう条件があったらできるのか。財政的な裏付けがあって、社会的にその病気をなくすことの重要性が認識され、我々のような人手があって、人から人にうつる病気で、かかっていることが容易にわかる病気であれば根絶が戦略的に可能です。一斉にやる日を設定し、多くの人を動員してやるという戦略が必要で、3日間、1週間と決めて一斉に行います。
成果を上げるためには人、物、金、仕組み、意志がなければなりません。まずは良質なワクチンが大量にできて、大量に供給できる体制が重要です。子供たちを鐘や太鼓で集めてお菓子もあげて、ワクチンを次々飲ませていきます。予防接種、注射であれば並ばせて消毒して…となるとワクチンの何十倍もの手間がかかります。
また、受け入れ側の協力、病気の怖さが分かり、子供に飲ませる必要性を親が理解し、連れてきてくれることが必要です。日本であればお母さんが母子手帳を持って保健所に三々五々来られますが、途上国ではお母さんが仕事を休まなければなりませんので、その場に我々が行って鐘や太鼓で集めて行います。「言うは易し行うは難し」で、だからこそロータリーがやっているわけです。 ポイントは何かというと、ガーンと減って1%になった時に使ったお金と、今から1%をゼロにするまでに使うお金は全く同じです。だからロータリアンの皆様にご寄付をお願いしています。人海戦術のためには膨大な人手と資金と、仕組みが必要で、ゼロになりましたという仕組みを作るのは非常に難しく、誰もいないということを証明するのは物凄く難しいです。2年間たって誰もいなかったら根絶ということになります。
もしもこれを収めなかったら逆襲が来ます。感染症は残念なことに逆襲があり得ます。結核は一時減りましたがまた増えています。逆襲を予防するためには、紛争や貧困、母親の識字がポイントになります。
先日放送されました「感染症ポリオ 残り1%の闘い」のDVDがあるようですのでご覧頂ければと思います。 クーラーボックスにワクチンを入れて対象の子供たちがいる家を、しらみつぶしに1軒1軒回ってワクチンを飲ませます。人口1億3,000万人のところをたった1週間で回りますので,物凄い人手が必要です。ただ、インドの場合は母親の7割が字が読めません。そこでロータリーは映画を作って、夜、村人たちに集まってもらって映画を観てもらいます。そこで現地の言葉で必要性を説明し理解してもらって、来てもらった子供たちにはお菓子などをあげています。
大事なことは、インドはヒンズー教ですが、イスラム教徒の多い地域では、協力して頂けず、イスラム教の宗教指導者や有力者に、子供たちがワクチンを受けることがいかに大事かお話しさせて頂きます。実際の問題として、子供を連れてくる親が少なかったり、何の役に立つのかをいちいち説明しなければならず大変な苦労です。
私は来年3月、神戸大学の定年を待たずに辞めて活動したいと考えています。大変な苦労であることは分かっていますが遣り甲斐があります。ミクロネシアは4つの島に11万人、そこで子供たちに予防接種をすれば、少なくとも確実にワクチンで防げる感染症をなくすことができて、子供が死亡しないということになります。4つの島の端から端までは2,500㎞、そこのメインの4つの島と、多くの小さな島を回って、子供たちに予防接種をしたいと考えています。
我々は戦略を持っていますが、やることは難しいということを是非ご認識頂ければと思います。本日はありがとうございました。