「日本の製紙業と日本製紙」 ~大震災を乗り越えて~ (日本製紙株式会社 関西営業支社 支社長 星  郁雄 氏)

2013年2月25日(第2633回例会)

(担当会員:松岡 庄司 君)

 

私共は紙のメーカーです。一昨年の東日本大震災により弊社のメイン工場である石巻工場が震災と津波でほぼ壊滅し、工場全体が動かなくなりました。
しかし、多くのご支援を頂戴しまして昨年8月にはほぼ全面的に復旧することができました。その一連の様子を弊社にてビデオにまとめましたので、後ほどご覧頂きたいと思います。
紙の原料は木材を使用していますが、現在ではその多くは植林木です。その他には端材や間伐材を使用しています。これら木材を細かく砕いたチップから繊維を取り出します。木材は繊維と糊分とで形成されていますので、これから繊維だけを取り出してパルプという形にします。
その他に古紙を再度繊維に戻して使用しております。
皆さんは和紙を抄くのをご覧になったことがあるかと思いますが、ああいったような作業を機械で連続的に実施することで紙を製造しています。
因みに紙の原料として紹介しました木材と古紙の比率は木材が3~4割で古紙が6~7割と日本国内ではリサイクルである古紙の割合が高くなっております。
紙は紙と板紙に大きく分類されます。新聞用紙、印刷用紙、情報用紙、包装用紙、衛生用紙などを紙とよんでいます。段ボールや白板紙などを板紙とよんでいます。
世界の紙の消費量についてお話をしますと、消費量全体は数年前まで伸びていましたが、2007~2008年のリーマンショックのあたりから伸びが止まっています。直近では世界で約4億トンの紙が使用されております。但し、地域的な偏りがあります。米国、日本、西欧といった先進国では紙の消費量は減少しており、中国などの後進国の消費が伸びているのが現状です。生産についても同様で、西欧、北米といった地域は減少してきています。一方で、アジアの国々の生産が中国を中心に大きく伸びてきています。現在は中国が世界で最も多く紙を作り、消費する国で世界の4億トンのうちの1億トンを占めています。
一人当たりの消費量では、日本は200㎏以上です。発展途上国でいえば、例えばインドは9㎏ですので、今後は更に消費数量が伸びる可能性を秘めていると考えられます。
まとめますと、世界の紙の需要・供給は微増傾向、但し、先進国は減少し、アジアを中心として数量が伸びています。インドなどの発展途上国の今後の動向は今後の需要・供給に大きな影響を及ぼすと考えられます。もちろん、紙の原料は木材繊維ですので、紙を作るための原料問題も出てくるものと考えます。
日本では、手前ども日本製紙と王子製紙、大王製紙などの大手メーカー5社で国内全体の約8割の生産を担っております。需要は近年減少傾向で、前述の通り2008年のリーマンショックを機に大きく減少しています。1980年台から年率約10%と需要は大きく伸びましたが、2000年を境にほぼ横ばい傾向となり、近年はマイナス傾向です。
需要がマイナス傾向にある中で東日本大震災の影響もあり、紙の需要も持ち直さず厳しい状況が続いています。また、近年は円高の影響で国内に海外の紙が輸入されるという状況も発生しています。
製紙業界は歴史のある業界です。現存する製紙メーカーのルーツは戦前まで遡ります。戦前にありました初代王子製紙が終戦後に財閥解体で3社に分割されました。ただ、ここ10~15年の間に合併し、今は王子製紙、日本製紙、大王製紙、北越紀州製紙、そしてレンゴーなどのメーカーが存在します。
私ども日本製紙は紙の生産では国内で最も大きいメーカーで、東日本大震災前は世界では第6位の生産量でした。生産拠点は全国に13箇所保有しております。東日本大震災では宮城県の石巻工場と岩沼工場、福島県の勿来工場の3工場が被害を受けました。特に石巻工場は地震後の津波で壊滅的な被害を受けましたが、2011年9月に最初の設備再稼働、昨年8月にはほぼ全面復興に至ることができました。完全復興まで約1年半弱の時間を要しました。目下は販売を元に戻すべく取り組んでおります。
それでは石巻工場の被災から復興までをまとめましたビデオをご覧頂きたいと思います。
[ビデオ上映]
想像を絶する出来事は、この日突然やってきました。誰も経験したことのない大きな揺れ、私たちは場内に流れる緊迫した放送により急いで高台に逃れました。勿論、これから何が起ころうとしているのか知る由もありません。その直後でした。私たち石巻工場が歩むことになる険しい道のりはこの時から始まったのです。震災の翌日、社長の芳賀は非常事態宣言を発令、それぞれの持ち場で力を発揮し、この未曾有の危機に対処してほしいとグループ全従業員に向かって強く訴えました。同時に災害対策本部を設置し、迅速な情報収集を開始、最優先で取り組んだのは従業員の安否確認でした。一方、被災地ではライフラインは勿論電話やメールも通じなくなり混乱を極めていました。幸いにも協力企業などを含め、当日工場内にいた全員の無事が確認されたのです。被災地における困難な状況が伝えられる中で、特に被害の大きかった日本製紙の石巻・岩沼・勿来の3工場に支援物資を送り続ける活動も開始されました。(中略)震災から1年半、遂に待ち望んでいた時を迎えることになりました。それは完全復興です。より強い基幹工場としての新たなスタートです。石巻工場は完全復興までの道のりを記録としてとどめ、東北復興の力となれるように、明日を拓く紙づくりに努めていきます。
以上、弊社にて作成いたしましたビデオを鑑賞いただきました。今後の製紙業界は非常に厳しい状況が続くと考えます。紙の需要は伸びず、電子媒体化が進行しています。そういう中でなんとか生きていかねばなりません。その状況を直視し、今後の課題として紙の新たな使い方、業界、会社として新たな多角的な事業を展開していかねばならないと考えています。そのためには紙作りをベースとしてそれを広げた事業、例えば弊社で進めています植林事業を培ったバイオ事業やエネルギー事業などが考えられます。
本日はありがとうございました。