「遺言、遺産分割の留意点」(岡 豪敏 君)

2010年1月18日 (第2498回例会)

1.明治維新の立役者とでもいうべき西郷隆盛さんは、「子孫に美田を残さず」と言ったと伝えられています。しかし、現代は、その頃と時代も異なりますし、ことに庶民は金銭感覚において鋭いところもありますので、西郷さんのおっしゃたようにはいかないと思います。

相続や遺産分割問題では、一たんこじれると深刻なこととなり解決まで長期間かかることが少なくありません。相続のことを「争族」という字を当てている一般向けの本もあるぐらいです。ですから、事前に準備し然るべく手を打っておくことが大事です。

川柳の中には、
「遺産わけ 親不孝ほど よくしゃべり」
「遺産分け ただでもらうに 何故もめる」
「最後まで お世話したのに みな平等」
など、世相の一端を巧みに表現したものも見られます。

2.それでは、本題に入ります。
配付している資料はA4版の9枚で作成していますが、1頁から5頁までは、遺言や遺産分割についての前提知識をまとめたものです。  6頁以降が、本日、特にご説明したい事項です。事業承継についても触れています

3.まず、前提知識としては、1.相続人、2.相続分、3.遺言の方式(自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3方式。さらに、危急時遺言などの特別方式)、4.遺言事項(法定遺言事項、任意の遺言事項)、5.遺言執行者、6.死因贈与、7.遺留分、8.遺産分割(イ.遺産、ロ.特別受益、ハ.寄与分)、9.相続税への考慮、についてレジメ風に整理しております。

「7.遺留分」は、「一定の相続人(兄弟姉妹を除きます。遺留分権利者といいます。)に法律上留保することを保証された相続財産の一部」と定義されますが、法定相続分の各2分の1です。この遺留分についての対応に手をとられることが少なからずあります。
「8.遺産分割」では、まず、遺産かどうかが問題となります。受取人が指定されている生命保険の死亡保険金や受取人が指定されている会社からの死亡弔慰金は、いずれも遺産に入りません。次に、遺産分割の対象となるか、という点では、預貯金や借金は、相続開始と同時に相続人間に分割されていると理論的に解されていますので、当然には遺産分割の対象とはなりませんが、分割の対象として相続人間で協議をすることは可能ですし、また一般的にはそうされています。

「9.相続税への考慮」では、配偶者に対する税額軽減や相続時精算課税、小規模宅地についての特例が注意点です。

4.資料の6頁以下では、事業承継などを含めて、任意に行う遺言の内容などについて整理しています。

遺言状で、「相続させる」、「遺贈する」、「任せる」の文言が使用されることがありますが、遺産の所有権移転の効果や登記手続などからは、「相続させる」の表現がよいとされています。

夫と妻で、相互に遺言する場合は、相続が開始した場合、子供には遺留分減殺請求を行わないようにお願いする文言を記載したり、「妻が遺言者より先に死亡した場合は、○○○(第三者)に全ての財産を遺贈する。」旨のいわば予備的な文言を入れたりします。
事業承継に関する遺言では、中堅・中小企業(特に、全株式につき譲渡制限のある会社)の場合は、遺言者の所有する自社の株式を遺産分割により分散しないようにすることが原則です。言い換えると、遺言者が事業の承継人と考える特定の相続人に自社の議決権ある過半数以上の株式を相続させるようにすることが遺言のポイントです。ただ、自社株を相続させる者以外の相続人には、遺留分がありますので、これに対する配慮をしておくことが必要です。もしも、他の相続人からは、同意が得られれば、相続の開始前に遺留分を放棄してもらいます。同意が得られない場合には、遺言では、相続開始後、遺留分減殺請求をしないようにお願いしたりしますが、これはあくまでお願いですので、法的拘束力はありません。そこで、遺言では、他の相続人には、現金、預金や無議決権株式(種類株式として優先的無議決権株式を発行しておく)を相続させることを内容とします。

その他、例えば、相続人でない者に、お好み焼き屋を継いでもらうが、その者がお好み焼き屋をやめたときは、相続財産である土地建物を相続人である妻などに返してもらう内容の遺言や遺言者所有の不動産を全て売却し、その代金で債務を完済した上で、残金を相続人全員で分配する内容の遺言も可能です。

また、遺言とは直接に関係しませんが、遺留分への対策としては、中小企業経営承継円滑化法を利用することもできます。

5.「遺言、遺産分割の留意点」としてお話をしてきましたが、時間が参りましたので、中途ですが、終わらせていただきます。