「都市格をつくるオーケストラの舞台裏」 ~昨今クラシック事情~ (公益社団法人大阪フィルハーモニー協会理事・大阪フィルハーモニー交響楽団事務局長 鈴木 貞治 氏)

2013年3月11日(第2635回例会)

(担当会員:西村真一郎 君)

 

今日はオーケストラの経済基盤、どういう成り立ちになっているのか、それを取り巻く環境についてお話をさせて頂きます。私どもはよく「日本で何番目ぐらいですか。世界ではどのぐらいのレベルですか」と聞かれますが、基準はありません。プロのオーケストラであれば、ある程度、最低限の技量は持っており、練習してきっちり仕上げる力を持っています。上手い下手というよりも、どういうものを聞かせるかという個性が要求されるジャンルではないかと思っています。大阪には4つプロのオーケストラがあります。それぞれが特徴を持った形で運営しています。大阪交響楽団は非常に珍しい作品を取り上げることで個性を作り出しています。関西フィルハーモニーの桂冠名誉指揮者、 飯守泰次郎氏はヨーロッパでオペラを丹念につくってこられたので、20年来、オペラを丁寧につくっているのが特徴です。大阪フィルはどうかと言いますと、朝比奈隆を中心に「関西交響楽団」という名称で生まれ、55年間、彼が指揮者を務めて重厚な音楽をつくってきたということにおいて、日本全体でも特徴のあるオーケストラであると思います。先日、定期演奏会でワーグナーをやりました。ワーグナーはドイツの作曲家で今年で生誕200年、これがオーケストラの響きだというものをつくりだせるのは大阪では大阪フィルだと思っています。ナンバーワンを競うのではなくて、オンリーワンをつくっていくのがオーケストラです。
日本オーケストラ連盟という団体があって、そこに所属することでプロのオーケストラだと認定されます。札幌から九州まで25のプロのオーケストラ、そして準会員が7団体あります。経済基盤としてどれぐらいの規模かというと、一番沢山お金を使っているのはNHK響楽団で、年間予算規模が大体30億、大阪フィルは年間10億弱、ちょっぴり黒字を出しています。僅かでも黒字を出しているのは努力の成果です。ただ、実際に演奏活動等で稼いでいるのは約半分、残りは国や都市からの助成金、民間支援に支えられています。実際の活動収入だけで成り立っているオーケストラは世界中を探してもないと思います。大阪フィルの場合は定期演奏会でチケットが6,000円ぐらい、出演料、ホール代、宣伝費等の経費から算出されたものです。ヨーロッパやアメリカはかなり安く、足りない分は寄付等で補っています。ヨーロッパの場合は国や都市がお金を出してオーケストラやオペラを支えており、立派なオーケストラがあるということは、その町のステータス、ハイレベルを維持していこうという形になっています。アメリカは国や市は出さずに支えているのは民間です。個人や企業や団体が寄付することでプログラムに名前が載って世間が評価してくれます。オーケストラは助成がなければ成り立たないということをご理解頂けたかと思います。去年からサポート会員をお誘いしています。正会員は法人会員の場合年間20万円、個人会員は年間5万円、日本は寄付したらどんな見返りがあるのか、どんなメリットがあるのか、これはスポンサーとしての感覚です。アメリカは良い演奏をしてほしい、良いものをつくってくれればよい、これはパトロン、昔からあるタニマチといえます。お客様の、年間5万円は出せないけれど何かお手伝いしたいという声があり、一口5,000円からのサポート会員をつくりました。昨年6月に始めて約100人の方に会員になって頂きました。尚、公益社団法人は税制上の優遇措置の対象となります。この中にはオーケストラがお好きな方、オーケストラは関係ないよとおっしゃる方もいらっしゃると思います。昨年、西の丸庭園で行った星空コンサートを11,000人に楽しんで頂きました11,000人全部が大阪市民だったとしても大阪市の人口は260万人ですのでごく一部、それでも何がしかの経済効果、波及効果はあると思っています。ザ・シンフォニーホールの定員は1,700人、その人たちだけのためのものではなくて、周辺の町の方々、オーケストラが存在していることによって都市の格ができてきます。オーケストラのある町なんだと見て頂ける存在になるのが、オーケストラにとって大事なことだと思っています。親子のためのオーケストラ体験というのが、夏休みの土曜、日曜にあります。
先日、リクルートの江副さんが亡くなりましたが、リクルート事件で退かれた後、文化の支援活動に随分努力され、オペラなどを支援されていました。その話が表にでてこないのが残念です。オーケストラやホールは町の空気をつくっていきます。つくった空気が人を集めます。集まった人がお金を落としていくという形になります。この春にフェスティバルホールがオープンしますが、大阪にとって中之島はどういう地域か、文化の創造と発信の場所、町の中の一つの格として存在するものとして、素晴らしいものができています。来週19日、女子組フェスティバルという全員女性のデモストレーションコンサートをやろうしています。中之島界隈で働いている人を中心に集めて、コンサートを聴いて頂いて、そのへんで食事をして頂く、こういうことをしながらフェスティバルホールを紹介していこうという催しです。ホール、美術館、博物館、図書館は町の中心です。そこに集まってくる人がいて、一つの町の雰囲気、空気ができる、オーケストラが演奏して町をつくっていく、そのために皆様方に支えて頂きたいなと思っています。フェスティバルホールやザ・シンフォニーホールに是非足を運んで頂いて、また、気軽にサポート会員になって頂きますようお願い致します。ザ・シンフォニーホールができて東京の人たちは羨ましがりました。時代を先取りする志が表れたホールです。ただ、生かし切れず、稼働率の問題など、それを解決しながら大阪の文化に貢献していこうと取り組んでいます。私どもは定期演奏会をはじめ色々な催しをしていますので聴きに来て頂ければ幸いです。