「いま大相撲に求められるもの」 (日本福祉大学生涯学習センター長 客員教授 杉山 邦博 氏)

2011年3月14日(第2549回例会)

(担当会員:橋本 誠一 君)

今のこの時間、皆様とご一緒させて頂けることを、生かされていることをしみじみ感じながら感謝しています。
大相撲界は大揺れに揺れていますが、そのことで11日の金曜日夕方5時から、TBSテレビの生のニュース番組に出て、相撲界はどうなるのか、5月場所について考え方を是非しゃべってほしいという依頼がありました。自宅に2時15分に迎えの車が来て、車についたテレビで国会中継の映像を観ていたら、三軒茶屋あたりで画面の下半分に「緊急地震速報 宮城県、山形県、青森県、福島県、秋田県に間もなく強い地震があります」というテロップが流れ「えっ」と観ていたら、全画面に地震速報が流れ、高速道路がユラユラと揺れて、止まった車が45度傾いて、頭によぎったのは平成7年の阪神淡路大震災のことでした。結果的にはTBCにたどり着くことができて、翌朝からは高速道路が使えるようになって、阪神大震災の教訓が生かされたと思っています。もう一つ、高速道路を走っていて地震が来たら、慌ててブレーキをかけないこと、じわっと静かに踏む、さすがに運転のプロです。大変勉強になりました。今日現在も福島の原子力発電所の問題等もあり、大変な非常事態、未曾有の事態を迎えている時に、相撲の話どころではないという気持ちもありますが、せっかく声を掛けて頂きましたのでしばらくお話をさせて頂きます。
TBSで、「3月の大阪場所が中止になったのは極めて無念、残念、しかし、一握りの心ない人がまるでゲーム感覚で八百長というとんでもないことをしたのは、けしからんことで、処分がはっきり決まるまでは、軽々とく開催に踏み切らないほうがいいのではないか」と申し上げようと思っていました。5月場所に関しては、全国に相撲を楽しみにしている方が沢山おられ、「少々のことは人情があってもいいんじゃないですか」というご意見がほとんどです。先日、徳光さんの番組で「八百長は絶対やってはいけない。ましてお金が動くのは裏切り行為、背信行為だ。但し、情というものがあって初めて人間というものがあるのだから、それを抜きにしては語れない。惻隠の情、情において忍びないという言葉がある。真っ白であってほしい、白にしなければならないのは間違いないけれど、だからといって真っ白になれるかどうかは極めて微妙だ。人間が生きている限り情というものを完全になしにしては存在しない。ただ、杉山は八百長容認かという言い方はしないで下さい」と申しました。これは、大相撲が今後どうなるかについての一つの見方にもつながると思っています。
今回、明らかに黒と断定されても仕方のない人が4人、極めて黒に近いと言われている人が10数人、灰色と思われている人が30人前後います。私は「過去にさかのぼっていったらきりがないし、全く生産性のない不毛の議論だから、こういう事態に追い込まれている相撲界をどう立て直すのか、どう生まれ変わるかということをみんなで話し合って、そこへ向かってのゴーサインをいつ出すかという知恵をだすべきじゃないか」と言い続けています。
大相撲は伝承された文化であります。大事な大事な単なるスポーツにあらず、単なる興行にあらず、伝承された日本の文化であります。西暦723年、1300年ほど前のこと、日本中が凶作続きだったのが豊作に恵まれ、大変雅豊かな秋を迎えることができたので、聖武天皇が勅令を発しました。お蔭様でこんなに豊作に恵まれましたと、力人を集めて、伊勢神宮をはじめとする全国21ヶ所のお社で感謝の祈りを捧げて相撲をとらせたということが史実として残っており、神事相撲がそこから始まり、営々と受け継がれて今日に至っています。神様の前で相撲を取らせてもらう、その担い手の一人だという自覚があれば、八百長などは考えられないことです。力士それぞれの自覚が第一ですが、周りも改めて原点を見つめ直して考え直す必要があると思っています。取り組みは、日本の文化を伝承し、皆様に勝負の厳しさを楽しんで頂いている瞬間だという自覚を持って頂きたいというのが私の情です。
今、相撲協会の理事長をされている元魁傑の放駒さんは最高の人です。副理事長の村山さんもそのへんをご理解されている方です。昨年の名古屋場所の時、野球賭博問題で大変なことになり、ゴーサインが出て開催にこぎつけることができましたが、年寄、関取、行事、呼び出し全員を土俵のそばに集めて、土俵まつりが終わった後に、「これから土俵の神と先人たちに対して頭を垂れる」と、誠に申し訳ないことでしたという意味で土俵に向かって全員にお辞儀をさせました。これは村山さんご自身の発想でされたそうです。部外の方々も知恵を出しながらあたっておられます。私は58年相撲の現場に通い続けていますが、理事長の魁傑さんは現役時代、一番たりとも疑いをもたれるような相撲はありませんでした。その弟子の元横綱の大乃国もそうです。ご自身がそういう現役時代を過された方がトップで頭を痛めながら、協会の再生に向けて必死に知恵を絞ろうとして頑張っておられることを、皆さんに是非ご理解頂ければ、長年通い続けた者として嬉しく思います。ただ、年寄株は105もいらないと、スリムになって、部外の方の知恵も入れなければならないと思っています。また、力士の数、700人は多すぎると、土俵にあがるお相撲さんの数が減っても、みんなに楽しんでもらえる相撲をとってくれる力士で頑張れば生まれ変わることができると思っています。50ある相撲部屋、数人しかいない部屋も10以上で、部屋付きの親方がいなかったり、女将さんが通いであったり目が行き届きません。こういうご時勢で、独立して自分の看板、表札を掲げたいという時代でしょうか。そういう中で、預かったお弟子さんを強くして、皆さん方を惹きつけるような力士を育てることにつながるかどうか、諸々のことが今回の不祥事と絡み合っていると思います。
相撲は伝承された大事な宝物、文化ですので、その文化を絶対に潰してはいけません。維持するのは容易ではありません。時代に応じた物を取り込みながら、譲れないものは譲らず、根幹に関わるものを見つめ直して、どうか再生の道を目指してほしいと思っています。