「裁判のしくみ」 (桑森  章 君)

2011年3月7日(第2548回例会)

今回の卓話は、たいしたものではありませんし、弁護士にとっては何を当たり前のことをという内容です。また皆さんにとってもそんなことはわかっているわと怒られるかもしれませんが、裁判というものはそう難しいものではなく、内容は非常にシンプルですという内容の卓話ですので、せいぜいお耳汚し程度に聞いて頂ければと思いますのでよろしくお願いします。

 

まずはじめに、事例を設定します。
カメさんはウサギさんに、平成23年1月1日に、返す時期を平成23年3月7日として、ニンジン100本を貸しました。でもウサギさんは、ニンジン100本は受け取っていない、もし受け取っていたとしてもニンジンは返した、と言って返してくれませんので、カメさんは途方に暮れて、弁護士に相談しました。
弁護士は、裁判をしましょうと言いました。
この事例で裁判はどのように進むのでしょうかというのが今回の問題です。
まず、カメさんから訴えが起こされた場合、裁判所はまず、中身の裁判にはいるかどうかを考えます。これを訴訟要件の審査と言います。この訴訟要件の審査によって中身を審査しないとされた場合、訴えが門前払いされることとなります。この訴訟要件は、大きく分けて裁判所に関するもの、たとえば、事件が日本の裁判権に服するものであるなど、と訴訟継続の発生に関するもの、たとえば、訴え定期の手続が有効であるなど、当事者に関するもの、たとえば、当事者能力(訴訟の当事者となりうる能力)などがあります。
この点で世間の注目を引いた事件がありました。それはアマミノクロウサギ訴訟と呼ばれる事件で、奄美大島におけるゴルフ場開発の許可の取り消しを求める訴訟が、アマミノクロウサギなどの動物を原告として起こされた事件です。動物は、当事者能力を有しませんので、訴訟要件にかけるので、訴訟は門前払いされることとなります。ただ、裁判所は、アマミノシロウサギを名乗った人物がいるはずだと考えて、届け出るように求めましたが、動物が届け出るはずもなく、結局訴えは門前払いされました。ただ、本来ならば、その場合、中身にふれることはしませんが、このときは、自然保護運動に対する一定の評価をすることになりました。
では、実は、カメさんは、亀という名の人であり、ウサギさんは兎という名字の人だったとします。そうすると訴えは門前払いされませんので、裁判はどのように進んでいくかについて説明したいと思います。
訴えの審理をする場合重要なものが弁論主義と言われるものです。これは民事訴訟の大原則で、自分たちのことは自分で決めるということで、その内容は、当事者が主張した事実のみ判決の基礎とできる、当事者に争いのない事実はそのとおりに認めなければならない、証拠は当事者の申し出た証拠しか調べてはならないという3つに分かれます。
これをより具体的に言うと、第1段階として、亀さんは、民法587条(消費貸借契約は、当事者の一方が品質及び数量の同じ物をもって返還することを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生じる)に従って、返還約束・弁済期・交付、弁済期の到来を主張することになります。これに対して兎さんは返還約束、弁済期、弁済期の到来については認め、ニンジンを受け取ったことを否定することとなります。
これによって裁判は、返還約束、弁済期、弁済期の到来したことは争点とはならず、立証の対象とはならず、裁判所もこれと違う認定をしてはならないこととなります。たとえば、裁判官がたまたま亀さんと兎さんの話をしている喫茶店にいて話が決裂したことを知っていても、返還約束を否定してはならないことになります。
次に第2段階はどうなるのでしょうか。兎さんは仮に受け取っても返したと言っています。そこで、亀さんは、これについて認めるか、否定するか、知らないという返事をします。たとえば、否定した場合、兎さんが亀さんにニンジンを返したかが争点になります。
以上により、次の立証の対象となるのは、まず、兎さんが亀さんからニンジンを受け取ったかどうかが争点(立証の対象)となり、それが認められた場合、兎さんが返したかどうかになります。
さらに立証はどうするのでしょうか。兎さんがニンジンを受け取ったことを亀さんが立証しなければならないので、それに関する証拠を提出することになり、兎さんはそれを疑わせる証拠を提出することになります。
そのような経過を経て、判決になりますが、裁判官はどのように判断するのでしょうか。
ここでは、自由心証主義といって、ある証拠からどのような事実を認定するのかは、裁判官の自由な判断・考えに委ねるという考え方が働きます。
これにより判決が下されることになります。

 

以上が裁判のしくみですが、順番を追っていけば非常にシンプルなものであることがわかって頂けたと思います。