「ブルドックソース事件」 (岡  豪敏 君)

2013年6月24日(第2648回例会)

 

会社の敵対的買収についてお話します。
まず、最近話題となっている西武ホールディングス対サーベラス・キャピタル・マネージメントの事例をご紹介します。西武とサーベラスは当初は、敵対的関係ではなかったのです。2005年にサーベラスが1,000億円を資金援助しまして、株式を32.4%保有する筆頭の株主でした。西武は上場廃止した後に、再上場を検討するようになってるわけですが、その再上場の株価算定にサーベラスが不満を持っていました。鉄道の不採算路線の廃止、品川再開発計画への参加、西武球団を売却することなどをサーベラスが要求してきたということが報道されました。サーベラスは必ずしも報道のような要求をしていないと言っておりますが。サーベラスと西武との間で見解の対立が出てきまして、一株1,400円でサーベラスがTOBをかけてきました。今年3月11日に、西武側は、TOBには賛成しないと公言し、サーベラス側は取締役の増員、監査役の追加選任などを要求しました。サーベラスは、それまでにも32.4%の株を持っていたわけですが、それが、TOBにより、5月末に3%ほど増えて35.48%の保有株式数になったところで、TOBは幕を閉じました。35%は、会社法上、重要案件は、株主総会で株主の3分の2以上の賛成が必要ですので、それを阻止できる拒否権を持っているということになります。サーベラスは、もともと32.4%持っているわけですから、事実上、株主総会で拒否権は行使できるということではなかったかと思います。ですから、サーベラスのTOBはあまり意味がなかったことになります。
次は、我が国の敵対的買収防衛策の導入状況ですけど、去年の7月末現在では514社が導入しています。これは、上場している全社の15~16%にあたります。
一般的な敵対的買収防衛策は、事前警告型です。これは、いわゆる平時、即ち、敵対的買収者が現れる前に、株主総会を開いて買収防衛策を株主総会で決議しておくという手法です。
大量買付者は、TOBをかけるにあたって、対象会社に買付提案書を提出します。取締役会は、これを検討。買収者が会社のためになる案を出してくれば、取締役会はすすんでその案を取り入れたらいいんですが、現実にはなかなかそうはいかず、独立委員会などの第三者の助言と勧告を受けて、取締役会による買収防衛策の執行をしていくということになります。
これからお話をする、ブルドックソース事件は、事前警告型ではないんです。まず、買収の対象会社となったブルドックソースは、東証2部上場で、主たる事業は、ソースその他調味料の製造・販売等です。
事実経過は以下の通り。
買収者は、SPJと略しますが、平成19年5月中旬に公開買付実施の意向をファックスで会社に送ってきました。2日後には公開買付開始公告がなされ、プレスリリースもされました。5月下旬にブルドックソースが質問権の行使をし、6月7日には、公開買付に対して反対の意見表明をしました。同時に、ブルドックソースは、株主総会へ、定款変更と買収防衛策について付議をしました。1週間後に、SPJは、東京地裁へ仮処分の申立てをしました。6月24日ブルドックソースの定時株主総会が開かれ、定款変更と買収防衛策の二つの議案とも承認されました。SPJは、6月28日に、仮処分申立てを東京地裁に、即時抗告を東京高裁にしましたが、いずれも負けて、7月10日には、最高裁に特別抗告、抗告許可の申立てをしました。8月7日に最高裁によるSPJの抗告の棄却決定がなされました。
株主総会の決議が承認され、7月11日には新株予約権の無償割当ての効力が発生しました。8月9日にブルドックソースによる新株予約権が取得されました。
最高裁決定の内容の一部をご紹介します。
ブルドックソースの定時株主総会においては、定款変更議案と新株予約権無償割当てを行うこととする議案が出され、出席株主の議決権の88.7%、議決権総数83.4%の賛成により可決されたことの確認をしました。
SPJの主張は、ブルドックソースの議決は、株主平等の原則に反する、とのことでしたが、最高裁はそれを全部棄却しました。
最高裁は、TOBをかけて買収された場合に、会社の企業価値が毀損され、会社の利益、ひいては株主共同の利益が害されることになる場合は、買収防衛策は認められるとしています。しかも、株主自身の判断によって株主総会の決議がなされたと認定しています。この結果、SPJは、持株比率が1株が3分の1株に低下しますが、ブルドックソースによる新株予約権の取得が実行されることによって、SPJは、その対価として金員の交付(1株について396円)を受けることができる防衛策となっていますので、そうすると、不利益はないのではないかと思われます。
次にSPJが濫用的買収者かどうかという論点がありましたが、最高裁はSPJが濫用的買収者であろうがなかろうが関係なく、ブルドックソースの買収防衛策は認められる、会社法に違反しないと判断しています。
TOBが始まってから定時株主総会で買収防衛策を決めていいのかという議論があり、裁判所はそれも是認しました。
ただ、今の経営陣が自分の経営支配権を維持するために、この買収防衛策を策定して実施する場合は、是認されないと判断しています。
この最高裁の決定後に、多くの学者は、事前警告型の買収防衛策において、買収者に対し、金銭等の交付をする必要はないと言い切っています。
日本の企業は、会社価値の割合には株価が低いといわれていますから、先端的な優秀な技術を持っている会社は狙われやすいと思います。現在、500社余りが買収防衛策を導入していますが、私はもっと導入する会社が増えてもいいと思っています。