「政治とメディア」 (羽衣国際大学副学長 斉藤  努 氏)

2012年1月30日(第2587回例会)
担当会員:上野 義治 君

 

私は元々毎日放送のアナウンサーで「ヤングおー!おー!」という番組に出ていました。ご年配の方であればご記憶にあるかと思います。その後、東京のTBSに出向し、海外取材の番組で40ヵ国ぐらいを訪問、色々な経験を積みましが、どうしても行きたかったのが北朝鮮です。北朝鮮と韓国、立場が変わるとこんなにもお互いに憎しみ合うのかということを感じ、初めて、人間とは、家族とは、国家とは、平和とは等々、真面目に考えるようになりました。毎日放送に戻ってからは報道、テレビ制作に回って、アナウンサー室長をへて、羽衣国際大学に入って10年、メディア学科をつくって現在に至っています。
大阪市長選を例題に、メディアと政治ということでお話をさせて頂きます。前市長の平松邦夫は私の5年後輩、今回もそのままいけるだろうと臨みましたが、橋下風が吹いて圧倒的勝利が向こうへ行ってしまいました。この経験を通じて感じたのはメディアの影響であり、今後の日本社会にとって相当重要な部分を占めるのではないかということです。橋下さんは75万票、平松さんは52万票で投票率は60.92%と上がり、如何に無党派層が流れていったかが分かります。30~50代の働き盛りの男性が圧倒的に橋下支持に回って、これが非常に大きいです。
他にも色々と橋下さんが勝った理由があります。平松さんには自民、民主がバックに回ってくれましたが、中央と市議団との意思疎通をうまくとれなかったこと、政策論争が通用しなかったこと、橋下さんは全国ブランドであり、地方ブランドとの違い、大きいのはメディアの伝え方です。新聞やテレビ、ネット、週刊誌は、大阪都構想が話題になればなるほど、全部橋下さん有利に流れました。橋下さんの個性、キャラ、物の考え方、パフォーマンスが非常にテレビ的であったということです。一つの風ができますと集団心理が働いて、社会心理学的にそれを止めるのは非常に難しいです。投票率アップの最大要因は市民の閉塞感、これを変えてくれそうな人、これに応えたのが橋下さんで乗ったのがメディア、それを受けたのが一般市民の皆様です。
戦後、全く変化できていない部分、それは憲法であり、公務員制度、教育、霞ヶ関の縦割り、地方制度、年金、介護、消費税、福祉と税制に関しては年金と税金の一体化ということで動き始め、追い詰められてやっと動き始めました。これら全部を一発でドーンとやるようなパワー、全国民の合意で動かしていかないと、閉塞感というのは払拭されません。平松さんもよく分かっていましたが、橋下さんは違う観点で捉えて、大阪市長選挙であるはずが、そうでない選挙の形になったという部分が、閉塞感と相まってメディアに火をつけたというのが今回の選挙の構図です。
メディアもきっちり分かっていると思いますが、政局的な面白さ、表面的な面白さを追いかけるのが現在のメディアですので、ここが一つの問題であると思っています。メディアの特性は即効性、同時性等々あり、ネットが新しく世論を形成するということで、今回の選挙でもそうでした。朝の6時頃から夕方6時まで80%がワイドショーです。司会者が自分の思いつきでガンガン話して、これに影響される部分が非常に大きいということを再認識して頂きたいと思います。ワイドショーの典型は、善か悪か、強いか弱いか等々、真ん中の価値観をどうも認めない方向にあります。視聴率があるのでそういう方向に流れる部分があり、政治の部分も二極化されて、根本の未だに変化していない日本社会のベースの部分から連動して考えてどうかというようなことがありません。
最近の出来事でいうとオウムの平田が17年間逃亡の末に出てきました。オウム真理教が社会に与えた影響はどうなのか、平田はどれぐらい関わっているのかを報道すべきなのに、ワイドショーが報道しているのは男と女の逃亡生活です。消費税の問題も表面的なことだけで詳しい話が出てきません。AKB48、一人ひとり見ていると、クリエイティブな部分もオリジナリティーもなくて、秋元さんがつくったもので本当の意味でのアーティストではありません。メディアが作り出して視聴率に結びつける、手法として政治も同じで、ここが一番怖いところです。政治もエンターテイメントも、浮ついた部分は日本の繁栄の延長線上にあるような気がしてなりません。原子力発電の問題もそうです。大阪都構想はどうなのかということを検証したメディアはいないと思います。
先日、新聞記者連中と話しましたが、「橋下さんはなかなか面白い、勉強もしているけれど、検証もしないで思いつきで物を言うので、それをニュースとして載せなければならず、検証する暇もなく、いつの間にか橋下さんの宣伝パワーになっている」とおっしゃっていました。一般の方々がメディアをみる力がないということで、これが今後日本の課題であると思っています。
メディアと政治、視聴率競争があって、下手をするとジャーナリズムの本質自体を失っているのではないか、情報のパス回しがいつの間にか一般の人たちの中でのパス回しになり、テレビ言っていたことは正しいという思いこみにつながります。それが判断力低下につながり、国民的議論の機会喪失、基本的に一番困った状況が今の日本社会に蔓延しつつあります。情報源の貧困ということもあります。小泉内閣スタートの時から圧倒的にワイドショーが多くなり、ワイドショーの政治介入、自分たちがしていることが社会にどう影響を与えるかを、あまり考えなしにやっています。メディアは自己コントロールのシステムを持っていますが人権問題が中心です。テレビや新聞をもっときちっとみていく部分がもう少し醸成されて、常にクリティカルにみる視線、姿勢を作り上げ、メディアを見抜く力を持たないと困ったことになりますので、私も出来る限りのことをしていきたいと思っています。

 

本日はありがとうございました。