「現代美術について」 (井上 佳昭 君)

2012年6月4日(第2604回例会)

 多くの方々から「現代美術はわからない」とよく聞きます。印象派は好きだけれど現代美術はどうもと言う方もいます。現代美術の画廊を経営する私としては非常に残念です。ただ私が現代美術を理解しているのかというと、自信がありません。一筋縄ではいかないのです。なぜなら日々新しい美術が生まれてきているからです。今日は短い間ですが、どうして現代美術が生まれてきたのかを私なりに説明してみたいと思います。
当初、芸術(ここでは絵画)は、個人が見た映像を記録と同時に、複数の他者に伝達される大事な情報伝達手段でした。古くは紀元前2万年前のアルタミラ洞窟壁画。人類最初の絵を記録にとどめる場所として有名です。鑑賞用ではなく、狩猟の成就を祈願する神聖な場所であったといわれています。
エジプト時代では人々は死んだ後も遺体を美しく保存しておけば、その魂は永遠に生きつづけられると信じていました。古代ギリシャの人々は肉体的にも精神的にも調和のとれた完璧な存在になることを理想と考えました。それは神に近づく事です。ギリシャ神話に登場する神々の姿を現した彫像は優美でドラマチックな表現が多く見られます。
中世はキリスト教文化の時代です。ローマ帝国でキリスト教が公認され、ヨーロッパの各地にキリスト教文化が広まり、神への祈りをささげるための修道院や聖堂が多く作られました。この頃の絵画は聖書の物語を絵解く布教のための絵画です。
14世紀になると人々は、キリスト教の伝統的な考え方にとらわれない科学的なものの見方をしたり、個性的で人間味あふれる芸術を求めるようになりました。芸術家たちは古代ギリシャ・ローマのような人間の理想をあらわした文化にあこがれ、再びよみがえらせようと考え、後にルネッサンス(再生・復古)と呼ばれるこの運動はイタリアを中心に盛んになりました。
近代に入って従来の神話、歴史、宗教などを絵解きする絵画ではなく、光の変化や空気感など一瞬の印象を捉え、再現しようとしたのが19世紀後半に現れた印象派です。
その後、印象派は光と影の振幅を捕らえることに努力し、とくにセザンヌは同一画面に複数の視点を導入して後のキュビズムに大きな影響をあたえました。キュビズムは20世紀初頭にパブロ・ピカソとジョルジュ・ブラックによって創始され、いろいろな角度から見た物の形を一つの画面に収め、ルネッサンス以来の一点透視図法を否定しました。キュビズムを経て、それまでのヨーロッパの美術の根幹をなした自然の模倣、再現を否定するようになるその代表が、抽象主義とダダです。これが後のポップアートやコンセプチュアルアートなどの現代美術作品に与えた影響は極めて大きなものでした。
以上現代美術の成り立ちについて話しました。次回はもう少しゆっくり時間を取って話したいと思います。本日はご清聴ありがとうございました。