「目標を持つ大切さ」(滋賀・高島ベースボールクラブ監督 伊藤 剛吏 氏)

2010年3月1日 (第2504回例会)
担当会員  髙木 健 君

我どもは今年1月1日付で生まれたチームで、地元、高島の人たち、企業の皆様に支えられて作られました。今まで関わってきたOBC高島に経済的な理由から昨年解雇された時には、不景気が生み出した理不尽に悔しい思いも致しました。

私は三菱自動車の本社人事部で勤務していましたが、思い切って退職し、高島市に根をおろすつもりで、野球に支えられてきた人生、残りの人生を野球で恩返ししたいという思いがありました。高島ベースボールクラブにOBC高島から8人ついてきてくれて、新人5人の13人からのスタート、もう全国大会に出るつもりで頑張っています。私自身もこのような選手たちと、また野球ができることに大きな喜びを感じているところです。

私は今年45歳、「今時の若い者は…」と言うようになったら年を取った証拠です。選手に「目標を持て」と言っても、個人的な目標、「プロ野球選手になりたい」というような形しか出てきません。「プロ野球選手になるにはどうしたらよいのか」と聞いて、辛うじて返ってくるのは「練習することです」と答えます。そこで「プロ野球の選手に何年でなれると思うか」と聞いて、「3年」と答えたら、1年目はどういう練習をすればいいか、2年目はプラスαで何を積み上げるのか、3年目は…。無理をすると挫折してしまいます。ゆっくりと時間をかけて選手と話しながら3年は無理でも4年、5年かけたらできるのではないか。今までやってきたことを思い返して、それをプラスαすれば到達の目標が見えてくるようになります。第三者の評価も大切です。チーム内で自分の力を間近で見てくれる仲間たち、スタッフ、その人たちの評価を上げないと、たまたまスカウトの目に留まることもありません。目に留まったなら、翌年も追いかけてくれるようになり、それまでには年月と、血の滲むような汗と涙の練習があります。

今時の子供、諦めが早いです。「プロに行きたいけどもう無理です…」と弱音を吐く、精神力の強い選手もいますが、弱い部分は誰でも持っています。若い選手たちの育った環境、小さい頃から自分の部屋を持ち「無理をしなくてもいいよ」という育てられ方をしてきました。我々はそれを分かった上で指導していかなくてはなりません。ただ、頭では分かっていても心の中では理解できない、そんな時はいくら指導しても成果は上がらないように思います。

OBCでの3年目の終わり頃、少し体調を崩して、心の中を見つめ直す時間がありました。家族のこと、会社のこと、野球のこと、もしかするとこのまま好きな野球ができないかもしれない…、その時に何かスッと吹っ切れたような思いになりました。自分の中に生まれたこと、それは、この選手たちを認めていこうということでした。この環境で育ってきた子供たち、我々とは時代が違うことを認めながらも厳しいことも言いました。私どもは一企業で支えられているチームではありません。高島市の企業に雇用して頂いて、地域の皆様に支えられて成り立っているチームであり、その中で求められるのは人間力です。選手たちが企業に認められるには、どういうふうに教育すればいいのかを考え、まずできることは身だしなみです。実務においても毎日ヒゲを剃る、選手と話し合いもしました。鉄拳が飛んでも選手から出る言葉は「ありがとうございました」です。日頃から「まずはトップとなるような社員になりなさい」と言っています。野球をさせてもらえることに対する感謝の気持ち、自分の気持ちをかき立てる、いわゆるマインドコントロールかもしれません。そうなると野球においても結果がついてきます。そこから選手の練習にも力が入ります。OBC高島は夏のクラブ選手権に出場し全国でベスト4に入り、日本選手権に出させて頂いたことも大きな自信につながりました。選手も私自身も成長した一年であったと思います。そんな時、無情にも切られてしまいましたが、それを基盤に、今や新しいチーム作りという形で出発させて頂いています。

大事なことは選手の自覚をどのように伸ばしていくか、そして個人の目標は当然ですが、チームプレーですのでチームとしての目標も大切です。チームを思う気持ちを、人を思う気持ちに変えてお話をします。打ちたい気持ちは分かりますが、バントして、一つずつランナーを進ませて得点につなげることを理解してもらいます。ホームランは稀なケースです。勝てば次の試合につながりますし、評価も頂けます。基本はしんどくて、つまらなくて、マンネリするような訓練ですが、毎日繰り返してやっていくことが大切です。

野球に関しては理解できても、これが勉強や仕事に対する姿勢となると少し違って理解してもらえないことがあります。そこで野球に例えると結構分かってもらえます。人間性も日頃の積み重ね、大きな声で挨拶をする、当たり前のことですが基本です。大きな声で挨拶するのが恥ずかしいなら、あなたは野球人ではないという形でお話をします。そうすると段々と変わってきます。企業の方から、「伊藤さんとこの選手は元気いっぱいやね。気持ちいいよ」と言われた時にはとても嬉しかったです。

人間づくりをしていって、彼らが企業の中で柱となってくれたらという思いで頑張っています。ただ、野球をやっているだけではありません。野球というのは5~6年、早ければ3年で終わってしまいます。一日でも長くやってほしいですが、企業人として企業を支えられるような人間になってもらいたいと思っています。人を思う気持ち、感謝する心、何よりも野球をやらせてもらうことの有難さを忘れない、そして目標を持つことの大切さ、このようなことを日々お話しています。

以上で私の話を終わらせて頂きます。本日はありがとうございました。