「『玉蘭荘』から見る 日台歴史の過去・現在・未来」(米山奨学生 張 紋絹 氏)

2010年11月1日 (第2532回例会)
担当会員  米田 猛 君

春浅き玉蘭荘の暖かく見にやさしき日本語ばかり
百万の手と手をつなぐ鏈の輪耐えよ我友雨にも陽にも
―Chu Lun Dunより(元会員・2007年に永眠された)―

台湾の台北市に「玉蘭荘」という日本語による高齢者のディケアセンターがある。私は研究のために2010年の春に初めて玉蘭荘を訪ねた。当時は玉蘭荘を単なるディ・サービスの老人保健施設だと思い、自分の主な研究対象である在台日本人のインタビュー調査が目的であった。しかし、玉蘭荘に入った瞬間、日本の人形や飾り物、日本語の本が多く並んでいる本棚、来客に挨拶やお茶などの日本的な礼儀作法、そして日本人か台湾人か判然としない方々の口からの日本語、まさに台湾の中の「日本」というような玉蘭荘の雰囲気を気付いた。ここは普通のディ・サービスの老人保健施設と違い、それ以上に意義のある場所だと感じた。日本の台湾統治は日本人と台湾人にどのような影響を与えたか、日本は台湾でどんな「遺産」を残したかを考えさせられた。この玉蘭荘を通して、台湾と日本の歴史の過去と現在と未来の絆を理解し予想できるではないかと思うので、ぜひ皆様方にもこの日本にとっても大変意義がある場所を知って頂きたい。

(一)「玉蘭荘」の成立経緯
玉蘭荘の母体団体は1978年に台北市に発足した日本語キリスト教集会の「聖書と祈りの会」(現在も継続中)。当時の日本人宣教師は台湾の各地で宣教する時に、台湾に残留した、または戦後台湾に渡ってきた日本婦人が子供の成人した後、言葉が不自由のために生活範囲が極めて狭く、友たちも少ない孤独な生活を余儀なくされていることを見て、また日常会話は台湾語でも、読み書き、歌うことは日本語によらねば感動が得られない日本語教育を受けた台湾人の年配者が多いことに気付き、これらの方々に日本語を使って心のケアをする場所の必要性を痛感し、1989年に日本語の高齢者ディケアセンター玉蘭荘を創立した。1993年に台北市の社団法人として認定されて正式名称は「社団法人台北市松年福祉会」となったが、現在でも通称として玉蘭荘と呼ばれている。最初から活動費はすべて募金に頼り、多くの日本人と台湾人のボランティアのご協力によって活動している。

(二)「玉蘭荘」の活動
玉蘭荘の活動日は毎週の月曜日と金曜日の朝10時から午後3時まで。朝の9時半から10時までは懐かしい日本のメロディーを各々リクエストしてみんなと一緒に歌う時間で、八十代以上とは感じさせない元気な歌声から、皆様方がどれほど楽しんでいるのかを感じられる。その後は礼拝、多方面の講演、健康講座、外来語、歌や賛美歌等の指導、映画鑑賞、英語、習字、おしゃべり会、カラオケ、手工芸などいろんなプログラムがある。それぞれに好きなプログラムを選んで参加できる。特別活動には、国内外団体との各種交流会、誕生祝い、音楽会、春・秋のピクニック、紅白歌合戦、季節行事(ひな祭り、台湾の端午の節句、七夕祭り)などがある。また、水曜日は訪問ケアの日で、入院とかで玉蘭荘に来られない方々を対象にボランティアが訪問する。

(三)「玉蘭荘」に集まる人々
玉蘭荘には次のようないろんなタイプの人々が集まっている。まず、台湾人と結婚して戦後台湾に残留したまたはほかの地域から台湾に渡ってきた日本婦人。そして、日本統治時代に日本語教育を受けて日本の文化や習慣などを身に付けた「日本語世代」の台湾人。それから、近年は戦後に仕事や留学などで日本か日本語と何らかの縁を持つ五十代からの方々も玉蘭荘に参加するようになっている。また、会員のほかに、日本人の母を持つ方々、「日本語世代」の親を持つ方々、台湾に就労や留学をしに来ている日本人女性、台湾駐在の夫を持つ日本婦人など、多くの無償ボランティアは活動日の受付、お茶の準備、昼食時の果物やスープと午後の茶菓子やコーヒなどの仕度、活動後の掃除などをはじめ、訪問ケア、会計、出納、講義まで、多方面にわたって玉蘭荘を支えている。

(四)玉蘭荘から見る日台歴史の過去、現在、未来
このように、日本と日本語に対する感情が大きな結び目となって、戦前と戦後の世代の日本人と台湾人とが玉蘭荘に繋がっているのだ。戦前の世代にとって、同時代を生きてきた同士の日本語による民族の隔たりを越えた心の交流は彼らに癒しを与えている。一方、戦後の世代にとって、戦前の世代と接することは彼らの日本観または台湾生活の在り方に影響を与えている。そのため、この玉蘭荘とここに集まっている人々から、日本と台湾とが交錯する歴史、そして現在進行形の日台の絆が窺われると考えられる。将来、台湾に日本語世代が少なくなっていくだろうが、日台の人的・文化的交流が続く限り、玉蘭荘のような場所の必要性はなくならないであろう。

長野県のロータリークラブが提唱し育成しているインターアクトクラブ研修団は2004年から毎年研修のために玉蘭荘を訪ねるそうで、これまで台北東海RCをはじめ、高山西RCや富士宮RCなどのいろんな地区のロータリークラブも玉蘭荘を支援してきた。この一文を通して、大阪西RCの皆様方にも玉蘭荘と日台歴史の生の証人といえる人々に関心を寄せて頂き、日台親善に大変意義のあるこの草の根の場所を物心両面において支援していただければ幸いです。宜しくお願い申し上げます。

社団法人 台北市松年福祉会「玉蘭荘」
住所:10658 台湾台北市信義路3段190-1号4F
電話:+886-2-2709-1010 / FAX:+886-2-2755-7273
E-mail:ylcs@gyokulansou.org.tw (今井総幹事)
http://www.gyokulansou.org.tw/