「モノ作りの現場から」(市川 雅邦 君)

2010年11月22日 (第2535回例会)

本日は「モノ作りの現場から」と題しまして、私どもの富士服飾研究所と中国内モンゴル自治区パオトウのカシミヤ工場のビデオをお見せし、モノ作りの一端をご紹介させていただきます。今、衣料品マーケットがおかれている現状からお話させていただきます。「ユニクロ栄えて国滅ぶ?」文藝春秋の09年10月号 浜矩子氏の論文が話題を呼びました。浜氏の論点は、「低価格がデフレスパイラルを加速して、消費がさらに収縮し、企業収益や賃金の下落を招く。」というものです。確かにジーンズ市場は、ファーストリテイリング社傘下の「ジーユー」が、09年3月柳井社長のトップダウンにて990円ジーンズを発売以降、イオン、ダイエーが880円、西友が850円で対抗し、果ては、ドンキホーテが660円で売り出すまでエスカレートしたジーンズ戦争。ついにはGAPがオープン記念で無料配布。ユニクロがジーンズ業界の崩壊を招いたとは言えます。しかし結論から言えば、低価格品が登場したから消費が収縮したのではなく、「経済の衰退による所得の減少と雇用不安が低価格指向をもたらし、新興国生産でコストを抑えた低価格品の氾濫を招いた。」と考えるべきと思われます。私どもの衣料品市場が、どの程度縮小したかと言いますと、推定値ではありますが、1997年17兆62百億円が2009年11兆91百億円と額では5兆71百億円、率では32.4%の減少(年率マイナス2.7%)です。全国百貨店衣料品売上高97年3兆77百億円が09年2兆34百億円(97年100%として、09年62%、38%の減少、年率マイナス3.16%)。衣料品の生産が中国を主とするアジアの新興国へと急激に移行していった90年代以降、衣料品の価格は下がり続け、それに伴って市場規模も縮小の一途をたどってきたが、我が国経済の現状、少子高齢化、ならびに生産現場が中国からベトナム、インド、バングラデシュなどへの移転等を考えると今後もデフレの進行で衣料品マーケットの縮小は、避けられそうもありません。

ユニクロの成功要因は、「百貨店の品質基準を満たす一般大衆が一見して理解できる仕様のベーシックアイテムを大量生産で格安に提供する」(フリース、ヒートテック、ブラトップ、カラーパンツETC)というわかりやすい仕組みが多くの顧客にインパクトを与えたことです。2020年売上高5兆円、経常利益1兆円構想(10年8月期売上高8,148億円、経常利益1,237億円)売上高1兆円を超える世界のアパレル 1.インディテックス社(スペイン)1兆31千億円、2.GAP社(米)1兆27百億円、3.H&M(スエーデン)1兆26百億円。グローバル化とは、優勝劣敗の熾烈な世界競争でもあります。走り続けないと負けてしまいます。日本のアパレル業界におきましても、レナウンさんが中国企業(山東如意科技集団有限公司)と資本業務提携。東京スタイル、サンエーインターナショナルさんの経営統合などマーケット縮小の中での企業存続に向けた新たな動きがはじまりました。

それでは、私どものモノ作りの一端をビデオで報告させていただきます。

当社の「ラピーヌ富士服飾研究所」は、1992年に山梨県富士吉田市に敷地面積1万1千平米、延べ床面積3千954平米、メイドインジャパンのモノ作りの拠点として、最新鋭の縫製機器、システムを備え、研究所と大阪本社、東京店とはオンラインで直結され、専用回線を通じて送られてくるパターンから、工業用パターンを作成しCAM(自動裁断機)に連動しています。第一アトリエは、裁断・仕上げプレス・検査・納品場所です。第二アトリエは、縫製場です。モノ作りのポイントは、「何万着つくっても、お客様には一人一着」を合言葉にモノ作りをおこなっています。

生産能力は、年間でジャケットで33,000着、スカートで20,000着、カットソーで22,000着、4億円の売上(縫製工賃ベース)全社の支払い工賃の約30%です。年間の縫製工賃が14億円、製品仕入れが26億円です。かっては生地を仕入れ、縫製工場で縫った製品を販売するケースがほとんどでしたが、現在は、ニット製品が増えたということもありますが、OEM(Original Equipment Manufacturer 発注元企業のブランドで販売される製品を製造すること。)のケースが増えています。また、当社の海外生産比率は、25%です。衣料品の海外生産比率は、2000年の統計で80%でした。

ここは、北京から空路で1時間、中国内モンゴル自治区の首都フフホト市、そこから高速道路で2時間のパオトウ市「包頭中紡山羊王実業有限公司」。カシミヤ、ビクーニャの高級獣毛糸の紡績、染色、編み立て等を一貫して行っている工場です。いまから説明するカシミヤ中空糸を生産しているすぐれた技術をもった工場です。このカシミヤ中空糸を開発したのは、今回同行した日本人で、もともとこの工場の共同経営者です。カシミヤ中空糸(商標名キャシュメイア)は、いままでセーター、毛布では、商品化されたが、ジャッケット、コートで商品化したのは当社が初めてです。普通のカシミヤより30%軽い400グラムに仕上げたジャケットを作ることができました。ジャケットで15万円、コートで25万円を上代で約1億円作って販売しています。カシミヤ以外にもシルク、アルパカ、アンゴラ等で試作品を作っているところです。撥水については、事業化できないか?研究しているところです。今後もニッチに徹して商品開発をおこなっていきます。ご静聴ありがとうございました。