「債権法改正について」―興味を持って下さい。意見を出して下さい。(林 邦彦 君)

2010年10月4日 (第2529回例会)

  1. 2009年11月より、法制審議会の民法(債権関係)部会において、債権法の改正について審議されています。債権法の守備範囲は、売買(小売、卸売、不動産等)、消費貸借(金銭消費貸借)、賃貸借(不動産賃貸借等)、請負(建築請負等)、委任(専門職)、雇用(労働契約)等であり,会員各位の業務に日常的に関わっています。
  2. 現行民法は、明治30年(1898年)に施行された法律です。以来、部分的な改正や、周辺法の改正はなされましたが、民法の中心部分は、明治以来の法律を現在もそのまま使用しています。そのため民法学者からは、債権法を改正して現代化する必要があると指摘されています。
  3. ドイツでは、1900年制定のドイツ民法につき、2002年に債務法改正がなされました。フランスでは、時効法は2008年に改正され、その他は改正論議中です。オランダでは新民法が1992年に制定されました。
    EUでは、契約法の統一の試みがなされており、ユニドロワ国際商事契約原則、ヨーロッパ契約法原則(PECL)が提案されています。国際物品売買については、1988年に発効したウィーン売買条約に、日本も先頃加入しており、2009年8月1日より施行されています。同条約は、各国の売買法の最大公約数的なものであり、国際物品売買につき日本法を準拠法とした場合、明示してその適用を排除しない限り、同条約が日本の国内法として適用されます(但し、アメリカ合衆国は加入しておらず、国際標準ルールとなっていると言えるかは、問題です)。
  4. 日本においても、民法学者は債権法改正について積極的に議論してきました。1998年、2006年に日本私法学会において債権法改正が取り上げられ,2008年に時効研究会による「消滅時効法の現状と改正提言」(別冊NBL122号)、2009年4月に民法(債権法)改正検討委員会による「債権法改正の基本方針」(別冊NBL126号)、2009年10月に民法改正研究会による「民法改正 国民・法曹・学会有志案」(法律時報増刊)といった改正提案が公表されました。
  5. こうした状況を経て,2009年9月に法務大臣から債権法改正に関する諮問がなされ、同年年11月より、法制審議会民法(債権関係)部会において、債権法改正の審議が始まりました(審議状況は,法務省法制審議会のホームページにて公開中 URL:http://www.moj.go.jp/shingi1/shingikai_saiken.html)。
    今後は、2011年4月頃、中間論点整理を公表し、パブリックコメントに付されることとなっています。
  6. 債権法改正の必要性の根拠としては、内田貴法務省参与(元東大教授 法制審議会委員)によれば、①市民に分かりやすい民法とすること、②現代化、③周辺法を取り込んで再法典化し民法の一覧性を高めること、④国際的統一とアジアからの債権法の発信などが、掲げられています。
    しかしながら、実務で民法を使う弁護士側からは、本当に改正の必要があるのか、実務からの改正のニーズがあるのか、学者主導の改正ではないか等との批判もあるところです。
  7. 法制審議会の委員・幹事の構成は、37人(委員19名、幹事18名 H22.7.20時点)中、学者19名、法務省・裁判所・内閣法制局9名に対し、実務側は弁護士4名、その他経済界等は5名に過ぎません。こうしたメンバー構成では、実務界の委員幹事が少ないのではないかとの問題があります。
  8. 日弁連では、法制審の弁護士会推薦委員幹事のバックアップチームを設置しています。大阪弁護士会でも、民法改正検討特別委員会において、大阪出身の法制審委員をバックアップするとともに、上記の「債権法改正の基本方針」に対する意見書(「実務家から民法改正―『債権法改正の基本方針』に対する意見書」大阪弁護士会NBL131号)を既に公表しており、積極的に対応しています。
    経済界では、東京では経済界出身の法制審の委員のバックアップ体制は整っており、研究会や研修も多くなされているとは仄聞しています。これに対して、関西では、まだこれからといった感じのようです。
  9. 現在の民法は明治時代に制定されたものであり、現代からすると修正すべき点もそれなりに見受けられます。経済界では、現実に不具合が目に見えなくても、常に改善点がないか検証し、Build Upしていくのは当然のことと思います。ですから、債権法改正においても、「改正の実務的ニーズがないから今のままでもよい」と安易に反対してよいとは言い難いと思います。
    本来重要なのは、債権法をより良い内容とすることですから、学者に任せっきりにせずに、個々の提案の内容を慎重に検討して、是々非々で対応し、実務の問題意識や意見を積極的に提示して、債権法改正に反映させなければならないと思います。
  10. 今回の卓話は、債権法改正の総論にとどまりましたので、機会があれば各論をご説明したいと思います。
    債権法改正は、会員各位の実務にも直結する法改正ですから、皆様、是非、債権法改正に興味を持っていただくとともに、経済界から、特に関西から、意見を発信していただきますよう、お願い申し上げます。