「東日本大震災から半年」 (松尾 雅明 君)

2011年9月12日(第2571回例会)

久し振りに卓話の当番が巡ってきました。最近2回は月間の担当委員長として講師の依頼をしていたため、自身の卓話としては本当に数年ぶりになります。最近は各種行事への出席が少ないのであまりお付き合いのない会員もおられると思いますが、職業分類では公認会計士として分類されています。昭和57年に公認会計士としての登録をしましたので間もなく30年になります。ロータリーの方も平成5年の入会ですので、もうすぐ18年が経過します。考えてみれば早かったなという感じがします。いつものことながら会計の事を含めたお話をさせていただきたいと思います。
さて昨日は9月11日ということで朝からテレビでは色んな番組がありました。2001年のアメリカのテロ事件から10年、それと今年の東北の大震災から半年を経過した日になるということからです。10年前のテロ事件の時は大変な事が起こったなと感じました。夜のテレビニュースを見ている最中に臨時ニュースとしてニューヨークのビルに激突する飛行機の映像が繰り返し放映された事は今でも鮮明に覚えています。ちょうどロータリーの幹事を務めて3カ月を経過したところで、世界が大変な事になるなと思いました。それからイラク戦争が勃発し、まだ世界はその後遺症に悩まされています。というよりももっと混沌としてきています。それから10年近く経った今年の3月11日に発生した東北の地震も大変な事でした。私自身平成7年の地震を地元で体験しています。その時は高速道路や多くの建物が崩壊して大惨事だと思いましたが、今回の東北の地震はそれに比して、さらに大きな被害を出しています。当然地震による被害もありますが、今回の場合それに加えて大津波による影響がさらに被害を大きくしています。発生当日はよくわかりませんでしたが、その後テレビで放映される津波の映像を見ていると、平成7年の時とは全く違ったものだと考えてしまいます。自然の力に対する人間の無力さを感じてしまいます。しかしながら今回の地震の被害をさらに大きくしたのが、原子力発電所の事故による放射能汚染でした。地震・津波による被害は天災と言えるものですが、発電所事故による被害は人災と言えるものがあると思われます。地震・津波直後の損害の把握、さらにそれに対する対応、またその後の情報の開示等、今後調査報告がされれば明らかになると思われる事項が十分であったのかという点については時間をかけて総括すべきだと思います。ただ個人的には十分だったと思えないのが、現時点での感想です。宮城・岩手県では復興に向けての動きがありますが、福島県では除染がない限りそれは不可能ではないかと思います。その意味からこのような状況を作った東京電力の責任は政府にまして大きなものだと思います。当然当事者としての賠償責任はあると思われるのに、その対応は不十分なままであり、この原稿をまとめている時点では何をかいわんや電気料金の値上げまで言及しています。この体質について批判が生じるのは仕方のないことだと思います。今後の賠償額は膨大なものになると思われます。
ところで、東京電力の原子力発電所の事故が発生し、その被害が甚大なものになるだろうという事が明らかになった時点で、おそらく我々会計士の多くは東京電力の監査報告書はどうなるのだろうと考えたのではないかと思われます。会社法や金融商品取引法の規定により、一定の資本金や負債を有する会社や上場会社は公認会計士の監査を受けることが要求されています。特に上場会社の場合、監査意見によっては上場が廃止になる場合が生じます。
公認会計士が表明する監査意見には3つのものと意見不表明があります。3つの監査意見とは、適正・限定付適正・不適正を言います。適正意見は全く問題なく適正ということで、限定付適正意見は一部を除けば適正という意味です。限定付適正意見の場合は除外事項というものが記載されます。不適正意見とは適正ではないという事です。一方で意見不表明とは文字通り意見を述べるだけの根拠が得られないために意見を述べないという事です。過去は意見差控と言われた時代もあります。簡単にいえば適正か不適正かわからないという事です。という事は普通に考えれば適正ではないのではと考えてしまいますが、決して不適正と言っているわけではありません。上場会社では不適正意見が表明されるか意見不表明の場合には上場が廃止されることになります。平成23年3月31日の東京電力の決算に対する監査報告書では適正意見が表明されています。一部除外事項が付いた限定付適正意見ではなく全くの無限定適正意見になっています。ただし意見の末尾に多くの追記情報が記載されています。追記情報とは会社の決算書に記載された注記をそのまま記載したものです。したがって意見ではありません。このように今回の監査報告書では追記情報は付与されているが、無限定適正意見が表明される結果になっています。地震発生日から決算日までの日数等から多くの損害額や賠償額等の見積が困難であったという理由によるものかもしれません。今回もし適正意見が表明されなければ上場維持の問題からさらに多くの混乱が生じたかもしれないという点が考慮されたのかも知れません。しかしながら現実的にはその被害の甚大な事から判断するにあたり、ほぼ債務超過状態に陥っているのではないかと推測されます。その意味から次の監査意見の表明は大変だと思われます。ただ個人的にはすべて東京電力のせいにするのは酷ですが、起こした結果の重大さから当然企業としての社会的責任を全うしてほしいと思います。その方法はこれから真剣に検討すべきものと考えますが、最終的には国有化もやむを得ないと考えます。